奈良ホテル館内 美術品&調度品めぐり
2017年 02月 18日
奈良ホテルは、明治42年(1909)創業の日本を代表する老舗のホテルのひとつです。
その土地と建物、調度品等はJR西日本が所有し、JR西日本と近鉄都ホテルが50%づつ出資した株式会社奈良ホテルが運営を担っています。
奈良ホテルの事実上のオーナーはJR西日本であることは、地元奈良でもあまり知られていないことかもしれません。
奈良ホテルの経営母体は、国営(鉄道院、鉄道省)、公営企業(国鉄)、民間企業(JR西日本)と移り変わって行きますが、初期の数年を除けば一貫して鉄道関連であり続けたということです。
奈良ホテル(本館)の設計は、日本銀行本店や東京駅の石積み煉瓦造りで有名な辰野金吾博士です。
但し、奈良ホテル(本館)は、ご覧のような純和風二階建て木造建築となっています。
これは、先行して建てられた帝国奈良博物館(現在の奈良国立博物館)の評判が思いの外悪く、奈良では依然古式ゆかしい木造建築が好まれていたようです。
このため、奈良ホテル(本館)は、当時の最先端技術である石積み煉瓦造りではなく、純和風の二階建て木造りとして建築されました。
奈良ホテル(本館)は、辰野金吾博士設計の現存する貴重な木造建築のひとつと言えそうです。
では、奈良ホテル(本館)の玄関を入ってみますと、正面にご覧のような大階段が見えてきます。
そして、この重厚な赤じゅうたんの大階段は、館内屈指の写真撮影スポットにもなっています。
ホテルの説明によれば、被写体は大階段下から7段目の向かって右側手すりに寄り掛かり、カメラは大階段向かって左側からローアングルで撮影するのがベストショットになるとのこと。
遠近法によって、被写体が実際よりも痩せて写るのが特徴とのことでした。
また、奈良ホテル館内には数多くの美術品&調度品が存在しています。
そして、そのいずれもが歴史的、文化的に高い価値を持ったものであるとのことです。
例えば、本館玄関の右側の壁(フロントの向かい側)に掛けられている上村松園画伯の「花嫁」(下の写真)は、なんと数億円の価値があるとのこと。
これ以外にも、大正から昭和にかけて鉄道省(当時)が特注した数多くの美術品&調度品が、何の惜し気もなく館内に飾られていました。
また、100年以上の歴史を持つ奈良ホテルには、皇族を始めとする、数多くの貴賓や来賓が滞在しています。
大正11年(1922)にはアインシュタイン博士、昭和11年(1936)にはチャールズ・チャップリン、昭和12年(1937)にはヘレン・ケラー。
その後もジョー・ディマジオ、マーロン・ブランド、オードリ・ヘップバーンらが奈良ホテルに滞在しました。
上記の写真は、本館1階ロビーの「桜の間」と呼ばれる部屋です。
それほど広くはありませんが、美術品&調度品の豪華さは、まさに奈良ホテルの伝統と格式を象徴してるかのようです。
即位後に滞在された天皇陛下と皇后陛下がこの部屋へお越しになられて、向かって左側一番奥のソファ(平成の大時計の向かい)に腰を掛けられたとのことです。
また、同じ「桜の間」には、アインシュタイン博士が実際に弾いたとされるピアノ(下記の写真)が当時のロケーションのままで保管されています。
アインシュタイン博士のピアノは、終戦後GHQの接収から逃れるために、元あった奈良ホテルから旧国鉄大阪鉄道管理局舎へ一時的に移されることになります。
その後暫く、アインシュタイン博士のピアノは世の中から忘れ去られた存在になってしまうのですが、やがてJR西日本時代になると、アインシュタイン博士ゆかりのピアノであると再評価されることになります。
そして、上の写真のマントルピースの形状とその位置関係から、ピアノは奈良ホテル本館1階ロビー「桜の間」にあったものであることが判明します。
百年の時空を超えて、アインシュタイン博士のピアノは、当時のロケーションのまま、時間が止まったままのマントルピースの隣りにそっと置かれていました。
次に、奈良ホテルの客室をご紹介します。
下の写真は本館ではなく、新館の客室(スタンダード)の様子です。
新館は昭和59年開業ですが、ご覧のとおり、広々としていて、リニューアルされたのか、とても真新しい感じがします。
本館は大正初期に設置されたセントラルヒーティング(スチーム暖房)が今も稼働していますが、新館では通常の電気エアコンが稼働していました。
客室(スタンダード)の広さや快適性を優先するのなら、本館よりむしろ新館を選ばれた方が良いのかも知れませんね。
ところで、新館の客室には、下の写真イミテーション(模型)のマントルピースが備え付けられています。(むろん暖房機能はありません。)
大正以来時間が止まったままの本館のマントルピースは、今では客室の重厚なインテリアとして往時をしのばせる役割を担っています。
このことからすると、おそらく新館に設置されたマントルピース(模型)は、本館のパロディになるのではないかと思われます。
「真実(神)は細部に宿る」とも言われますが、奈良ホテルのディテール(細部)に対するこだわりには、感服するものがあります。
奈良ホテルはその創業地を決めるに当たって、奈良県や奈良市からは東大寺の南側の土地(奈良公園あたりでしょうか。)を打診されたようです。
しかしながら、打診されたその土地は平坦で見晴らしが良くなく、このため近隣で眺望が良いとされた当時飛鳥山と呼ばれていた現在地に決まったようです。
小高い丘に建てられた奈良ホテルは見晴らしが良く、本館1階のメインダイニングルーム「三笠」からは、ご覧のように、興福寺の五重の塔を見渡すことが出来ます。
朝食は、本館1階のメインダイニングルーム「三笠」で、茶がゆ定食をいただきました。
朝食のメニューには、茶がゆ定食、和食、洋食の三種類があります。
ホテルの説明では、ホテルマン泣かせのメニューは「洋食」であるらしく、宿泊客はパンの種類、卵の焼き方、ジュースの種類をリクエストすることができます。
自分の好みにこだわる常連客には、「洋食」メニューが一番の人気であるようですね。
奈良ホテルは、県内随一の格式ある高級ホテルとされています。
遠方の方ならともかく、その敷居の高さから、県下や近隣府県にお住まいで、奈良ホテルに宿泊された経験をお持ちの方はそれほど多くはないのではないでしょうか。
また、奈良ホテルの高級ダイニング「三笠」は知っていても、実際にそこでサービスを受けたという経験をお持ちの方はそれほど多くはないのではないでしょうか。
今回、奈良県「ふるさと割」を利用させていただくことで、奈良ホテルの宿泊体験させていただくことになりました。
そして、奈良ホテルの各論については、上述してきたとおりです。
最後に、奈良ホテルの総論ですが、なにより他のホテルに比べてホテルマンの数が多いように感じました。
それは、目に入るフロントや玄関付近の人口密度が高いため生じた錯覚であるのか、それとも奈良ホテルが、JR西日本ホテルズや近鉄都ホテルから、十分に距離が取れた唯一無二のホテルとして存立できているからなのか。
答えは定かではありませんが、いずれにせよ、奈良ホテルは、建造物や美術品&調度品のみならず、働く人(ホテルマン)に古き良き時代の伝統と格式を感じることのできる、有形無形のアセット(資産)を保持した素晴らしいホテルであると思われます。
奈良ホテルはただ高級であるだけではなく、楽天やじゃらんの旅行サイトから申し込めば、比較的リーズナブルな料金で利用することもできます。
まだまだ春が待ち遠しい時節柄ですが、奈良ホテルの数多くの有形無形のアセット(資産)の中に、あなただけのスプリング(春のときめき)を見つけに行く旅を計画されるのはいかがでしょうか。
(おわり)
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