貨幣論/岩井克人(10)
2010年 11月 02日
世界中央銀行が出来ることは理想ではありますが、今は足がかりになる国際機関や制度を地道に作り上げていくしかない現状にあるといえそうです。
ほんとうの基軸通貨ができるまで、なんとかドル基軸通貨体制をもたせるしかないということになりそうです。
貨幣は関係性によって成立しているのですが、世界経済のなかの主権の問題においては、外部に国家が必要となります。
つまり、世界経済には、いくつもの異なった国家(主権)が存在しうるということになります。
そして、それらの国家には異なった制度や機関が存在することになり、それらは必ずしも市場原理に従ったものとは限らないということです。
不均衡動学の理論の基本テーゼは、資本主義経済とは、本来的に不安定なシステムということになりますが、それがまがりなりにも、なんらかの安定性をもっていられるのは、その中に市場原理に従わない制度や機関が存在しているからということになります。
不均衡動学は、夜警国家(小さな国家)ではなく、固い石のような異物(市場原理に従わない大きな国家)が、資本主義の中に必要であると主張していることになります。
共通通貨システムというのは、労働がかなりの程度自由に移動するという前提がなければ機能しにくいものといえそうです。
ユーロについては、域内の文化差があるために、労働の移動は起こりにくい状態にあるといえます。
中央銀行では、ユーロ参加国のなかでもっとも停滞している地域にあわせて共通通貨を発行するという傾向が生まるため、長期においてはユーロの信任が揺らいでしまうことにもなりかねません。
ギリシア危機は、このような事例のひとつといえるのではないでしょうか。
世界中央銀行(共通通貨システム)ができることは、待望されていることといえるのかもしれません。
しかしながら、世界中央銀行ができると、ほんとうの意味の文明の衝突が起きることになるかもしれません。
つまり、世界中央銀行という制度が、労働者が地域の間を移動することを前提とした制度になっているからです。
労働者が移動すれば、つねに文化的な対立や摩擦をもたらします。
かつての国民国家の成立時においては、国語の統一、国民文化の教育というものが、近代国民国家の枠組みを作るのに決定的な役割を果たしたことからも分かることではないでしょうか。
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